今年は世界的猛暑ですが暑い夏には怖い話が定番です。日本の古典的な怪談といえば四谷怪談のお岩さんですが、タイにも有名な「メー・ナーク」の話があります。バンコクのオンヌットで起きたという怪奇現象の話です。タイの怪談は、どんな話なのでしょうか。
実在したメー・ナークの悲恋
メーはタイ語でお母さんという意味です。180年ほど前のラーマ3世の治世に実際にいた女性だと伝えられています。
プラカノンは当時、バンコクの近郊にある村でした。村長の娘、ナークは、庭師の若者マークと恋に落ちました。身分制度が厳しい時代だったので、父親は激怒して二人を引き離し、ナークを富裕層の中国人と結婚させようとしました。
ナークは家出をしてマークと駆け落ちし、現在のオンヌットへ行きました。しばらくしてナークは妊娠しますが、貧乏暮らしのなかでマークは徴兵され戦場へ行くことになります。
ナークは村に住む老夫婦の援助で暮らしますが、慣れない土地での生活で弱っていたこともあり難産となりました。
ナークはマークにもう一度会いたいという願いもむなしくお腹の赤ちゃんと一緒に亡くなってしまいます。
メー・ナークの祟りが起こる
ここから怪奇現象が起きます。
戦場にいるマークの前に、赤ちゃんを抱いたナークが現れました。久しぶりに家族で過ごしましたが朝になるとナークと子どもは姿を消していました。数か月後、マークは村に帰ってきましたが、老夫婦をはじめ周囲の人は「ナークはお産で亡くなった」と言います。戦場でナークに会っているマークは信じず、自宅に戻ります。
すると本当にナークと子どもが家にいたのです。村人たちは「あれは幽霊だ。近づいてはいけない!」と叫びますが、マークは気にしないで暮らし始めました。
ところが数日間一緒に過ごしていたときのことです。
ナークが縁側で唐辛子を臼で砕いていると手が滑って杵が庭に転がっていきました。するとナークの腕が数メートルの長さに伸びて杵を拾ったのです。マークは「妻は死んで化け物になっている」と気づき、寺へ逃げ込みます。怒ったナークの亡霊は祟りを起こして村人を呪い殺していき大変な騒ぎとなりました。村が全滅する寸前、ワット・マハーブットという寺にいた少年僧が強力な祈祷を行いました。ついにナークの亡霊は抑え込まれ、骨壺に封印されて運河へ沈められてしまったのでした。
この話は、悲恋の話「愛しのゴースト」という映画にもなり、タイでは有名な怪談として語り継がれています。
日本にも似た話があって、戦乱で十年ぶりに帰宅した夫が妻と再会して一緒に寝るが夜中に目覚めたら廃墟の中で寝ていて誰もおらず、妻は既に亡くなっていたことを知る、という「雨月物語」の一節があります。恐怖を感じるポイントに日本とタイの文化の違いがあって興味深いですね。
今では恋愛&宝くじの神様!?
オンヌットのスクンビット・ソイ77の奥に、「ワット・マハーブット」は現存しています。メー・ナークの墓地と祭壇があってリアルなメー・ナークの肖像画などが奉納されています。はじめは軍人が留守の間に家に不幸がないよう願う場所として信仰を集めましたが、夫への愛を貫いたナークにあやかり、恋愛成就の神様として女性の参拝客が多く訪れるスポットになり、そしてなぜか宝くじが当たる願掛けスポットとしても有名になっています。
一途なタイ女性の想いに思いをはせて、訪れてみてはいかがでしょうか。
แม่นาคพระโขนง
ワット・マハーブット(メー・ナーク・プラカノン)
開館時間 7:30―17:30 入場無料