
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手のお金を通訳が勝手にギャンブルで使っていた、という問題が話題です。メジャーリーガーは大変だなと思いましたが、タイで働く我々も毎日、タイ人の通訳や日本語・英語話者と接点があります。トラブルの確率はメジャーリーガーの比ではないかもしれません。
タイ人の通訳者についての注意点は色々ありますが、今回は、誤訳を防ぐ方法というテーマで考えてみましょう。
日本語能力試験のレベルは?
タイ人の日本語通訳を求人で採用する際に、人事が目安にするのが日本語能力試験(JLPT)です。毎年7月と12月に日本やタイで試験が行われ、文法や文字、ヒアリングなどを判定します。難易度順に「N1」から「N5」まで級があります。
接したことがあるタイ人をみているとこのような感じです。個人的主観です。
【N1】専門的ジャンルの通訳・翻訳も可能
【N2】仕事の話が十分できる。ただし人により文字が苦手とか急ぎの話が無理など一部弱点あり。
【N3】意思疎通は7割OK。難しい話は厳しい。わからない時は言葉を言い換えると通じる。
【N4】簡単な話ならなんとか。こみいった話は無理。
【N5】会話例程度。日本人の英語でいうと中1。とりあえず今日も直接一言二言コミニュケーションをとった、という関係作りができる程度。
その人の経験や器用さも関係してくるので、あくまでも目安です。
通訳として使えるのはN2レベル以上です。ミスの許されない商談ではN2はないと厳しいです。でもN3は、簡単な言葉で補うことができるレベルだと思います。たとえばこのようなことです。
自分 「プロイさんに、A社の見積もりが出たら、社内で共有するように、言ってください。」
通訳者「キョウユウ、って何ですか?」
自分 「プロイさんが、みんなに教える、ということ」
通訳者「あーわかりました。」
要するに、「日本語で日本語を説明したときに理解できる」ぎりぎりのレベルがN3ではないかと思います。これがN4以下だと英語やグーグル翻訳などで捕足が必要です。
通訳ではなくて一般的な業務スタッフ、例えば製造ラインの工員、オフィスでも事務職やウェブ技術職などの人で日本語もできる人が採用されている場合があります。級は持っていない人もいますが級でいうと大体N3~N5クラスの人です。N2以上の力があればそもそも通訳職など語学をメインにした職種に応募するからです。
そういう人に通訳もやらせるのは、その人のストレスや社内の人間関係の問題、そして後述する正確性の問題で、トラブルのもとなのでやめるべきですが、その人と意思疎通をとる分には十分です。
そこそこ話せるN3レベルの落とし穴とは
N3、そしてN2の下位レベルの人で注意が必要なのが、“わかったつもり”です。
このクラスの人は、雑談では問題ない人が多いです。でも中途半端に語学力があるため、わからない部分があっても“多分こうかな”と自分で想像したり、深く考えず早合点する傾向があります。するとビジネスの場合、大きい間違いになるケースもあるのです。例を出しますと、
「値引きしたピックアップトラックとバンを注文します。」
と言われたときに、“値引き”はピックアップトラックだけなのか、ピックアップトラックとバンの両方を値引きしたのか、というような話です。
A(B+C)なのか、A×B+Cなのかという問題ですね。文章でなく会話では、ありがちです。
われわれ日本語が母国語の人は、こういう言い方をされたら、どっちの意味なのかあいまいなので確認をします。
でもタイ人通訳者が自分の中で結論を出してしまって、
「クライアントが、ピックアップトラックとバンを値引き価格で注文しました。」と翻訳してしまったら、これを聞いた日本人は、ひとつの意味にしか聞こえなくなってしまい、確認をする発想も抜けてしまいます。N1やN2上位クラスの人で通訳経験がある人だと、正確に訳したり、相手やこちらに聞き直しながら正確性を高める力量がありますが、あるレベルまでの語学力だと上記のような“決めつけ”をしてしまうのです。また、タイ人特有の「わからないことをわからないと率直に言えない」という気質も加わるので、推測で訳する人もいるのです。
これがよく起こるのがN2下位~N3レベルです。特に通訳者としての経験を積んでいない人で他の職種で採用されたが日本語もできる、という人だと顕著です。だから本職でない人を通訳として使うのは危険なのです。
N4レベル以下だとそもそも相手の発言の意味がわからないか、こちらに説明する日本語も怪しくなるので、問題に気づきやすいです。
タイ語がわからなくても通訳・翻訳のミスを見抜く方法
対策は、こちらの言葉を通訳させるときは主語をはっきりさせ、修飾語が増えないように短いセンテンスで言い切る、ということでしょう。
また、簡単な方法が、日本語から訳したタイ語をもう一度日本語で言い直してもらうというやり方です。社内公用語が英語の場合でも同じです。
自分 「“自分の身の周りを整理整頓すること”と新人に伝えてください。」
通訳者 การจัดระเบียบสิ่งที่อยู่รอบตัวเองให้เรียบร้อย
自分 「そのタイ語はどういう意味ですか?」
通訳者 「えっと、その人が自分の近いところにある物を、規則の場所に、置いてください、という意味です。」
自分 「その通りです!」あなたが言った言葉をタイ語に訳してパソコンの画面に打ってもらい、それを指さして、なんて書いてありますか?と聞く方法もあります。
逆に相手のタイ語の言葉や文章を日本語や英語に翻訳するときも同様です。通訳してもらった内容を聞いた後に、こちらが日本語や英語で別の言い方にして聞き直し、「こういう意味ですか?」と確認するのです。
これならタイ語がわからなくても相手の通訳・翻訳の正確性をある程度検証できます。
皆様は、社内や取引先の日本語話者の人と話すときは、どういうことに気をつけておられますか?
カラオケやスナックの女の子の場合、資格なんか持っていなくても片言の日本語でがんばって話してくる娘ばかりで、彼女らのすごさがよくわかります。そういう娘らと日本語で会話をたくさんすることで、日本語力が弱い人に、どう話せば上手に伝えられるかというテクニックが身につくかもしれません。