先日、アランヤプラテートの国境地帯で、睡眠薬強盗を行ったとして29歳のピンピンという名前のレディボーイが逮捕されたという事件がありました。
ピンピン容疑者が、出会い系アプリで「お金に困っている人は相談に来てください」と発信し、これを信じた被害者が連絡して来たら、会って現金を与えた後、一緒にビールを飲む際に相手のグラスに睡眠薬を仕込み、現金や貴重品を奪うという手口でした。9月7日には、若い男性とバンコク・シーアユタヤ12にあるホテルで会って、現金、携帯電話、バイクなどを盗んで逃走。警察は追跡し、アランヤプラテートの国境エリアでピンピン容疑者を逮捕しました。
取り調べの結果、ピンピン容疑者は、カンボジアに拠点を置く詐欺コールセンターの幹部であることも発覚したそうです。
アランヤプラテートとは
アランヤプラテートとは、バンコクの東250㎞のところにあるカンボジアとの国境にある街です。カンボジア側の町はポイペトというところでカジノがあります。タイではカジノは非合法なので、ギャンブル好きのタイ人はポイペトに行くことが多いです。
なんとタイ語でアランヤプラテートとは「僻地」という意味らしいです。
国境の先はポルポト派の拠点だった
カンボジア側のポイペトも、いわくつきの町です。
1970年代、カンボジアを支配したクメールルージュの指導者ポルポトは恐怖政治を行い、人口の4分の1の200万人前後が処刑されました。クメールルージュはベトナムに戦争を仕掛け、返り討ちに合って1979年に政権崩壊しますが、ポルポト派はタイとの国境地帯のジャングルに逃げ込みます。東南アジア諸国は関係が深い一方、対抗心もある複雑な関係です。
ベトナムの拡大を防ぎたいタイは、国境を超えるのを黙認したのでベトナムの支援でできたカンボジア新政府軍が攻めてくるとポルポト部隊はタイへ逃げることを繰り返しました。
その拠点のひとつがこのポイペトだったのです。ルビーや木材をタイに売り資金源としていました。
だから21世紀に入る少し前までポイペトは、南部のパイリンと並びカンボジアでありながら政府の力が及ばない治外法権のようなポルポト派の牙城でした。
川を泳いで密入国
そんな国境の街なので、わけあり人物の密入国事件も良く起こるポイントです。
2015年にバンコクのエラワン廟で爆弾事件が起きました。犯行グループの一人とみられる男が同年9月、アランヤプラテートで捕まっています。正規の国境ゲートではなく近くの林の中をカンボジア側に向かっていたところを国境警備隊が発見しています。
昨年7月には、タイで初めてサル痘に感染したナイジェリア人男性(27歳)が、プーケットの病院に収容されていましたが、オーバーステイもしていたため脱走しカンボジアへ逃亡を企てます。なんと夜に国境の川を泳ぎ、カンボジアに入国をします。その後、プノンペンまで逃げましたが逮捕されました。
タイ女性が監禁され身代金要求
今回のレディボーイ事件のように、カンボジアは中国マフィアによるタイへのオレオレ詐欺などの拠点になっていて、時々摘発があります。
虚偽の求人広告で、カンボジアのカジノでの仕事と騙されたタイ人が国境を越えた後、監禁されて詐欺に加担させられ、拒否すると殴打されるなどの扱いを受けるということがよくあるそうです。2021年に起きた事件では、タイ人女性の3人が、仕事があると騙されてポイペトへ行きました。すると雇用主の中国人は3人を拘束、家族に1万バーツの身代金を要求したのです。女性らは隙をみてタイの電波を拾ってSNSでタイ警察に助けを求め、カンボジア警察が動いて救出されました。
もし家族が身代金の支払いを拒否すれば、女性らをマフィア組織に売ると脅していたそうです。
国境の町は物騒なものです。仕事などで訪れることがあればご注意ください。もし知り合いのタイっ娘が「カンボジアでいいバイトがあるんだ」などと言っていたら、ひきとめてあげたいものです。