お盆休みということで、先週に引き続き、タイの怪談第二弾です。
今回は、タイの伝統的な化け物が現れたという話をご紹介します。
タイ語では幽霊のことをผี “ピー”といいます。
といっても、死んだ人がなるという死霊だけではなく、精霊とか日本でいう妖怪の一種に至るまでが「ピー」と呼ばれるので、ストライクゾーンが広く、化け物全般のことを意味します。
タイにもいろいろな化け物の言い伝えがありますが、代表選手といえば、この“ピー”だと思われます。これは、昔のホラー映画ポスターですが、弱い光を出す女性の生首が空中に浮いていて、首から下には体はなく、胃や腸などのむき出し状態の内臓がぶらさがっている、というものです。
タイ人と話していて、この化け物の話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
この化け物はผีกระสือ「ピー・ガスー」といいます。
とても独特な姿ですね。どうして、内臓しかないのでしょうか?
「ピー・ガスー」はグロさ満載の化け物
「ピー・ガスー」に内臓しかない理由ですが、実はこれは完全体の姿ではないのです。
「ピー・ガスー」にもちゃんと身体はあって、昼間は見た目は普通の女性として暮らしています。夜になると頭の部分と内臓だけが体から、ずぼっと抜け出て、飛んでいくのだそうです。部分幽体離脱、みたいなことでしょうか。
「ピー・ガスー」は見た目だけではなく行動もグロテスクです。
人も襲うそうで、牙でかみついてきます。幽霊なのに生肉、人間や動物の血、そしてウンコを食べます。最大の好物がお産の後産なのだそうで、グロさを徹底した化け物なのです。
外に干しておいた洗濯ものに汚物がついていたら、それは鳥の糞などではなく、この「ピー・ガスー」が現れた証拠だといいます。なぜなら「ピー・ガスー」は汚物を食べた後、道に干してある洗濯物で口を拭くからだそうです。だから今でもタイでは夜に洗濯物を干すことは縁起が悪いとされています。
ゲテモノ好きのくせに、食後に口を拭く上品さも忘れない、よくわからない化け物です。
TVで報道された「ピー・ガスー」騒動
タイ人は「ピー・ガスー」の話が好きな人がいて、真剣に存在を信じている人もいるそうです。以前は映画にもなったほどです。
「ピー・ガスー」の“目撃情報”は時々あって、これは2020年、タイの農村で現れたとされる「ピー・ガスー」について報道するTV番組です。
村人の証言をもとに再現したVTRによると、夜中に飼っている犬たちが吠えるので、見にいったところ怪しい光る女の顔が空に浮いていた。カエルを投げるとその発光体はカエルを食べたらしく、地面に半分食いちぎられたカエルが落ちていた。あれは「ピー・ガスー」にちがいない・・・
こういった、報道内容だったそうです。このTV局はB級ゴシップやオカルトを扱うことが多い娯楽色の強い局なのだそうですが、タイ人の「ピー・ガスー」好きがよくわかります。
タイ人が考える「ピー・ガスー」の弱点とは
ドラキュラだと十字架、キョンシーだとお札に弱いですが、「ピー・ガスー」を退治する方法は何なのでしょうか?
「ピー・ガスー」は昼の時間帯は普通の女性の姿をしていますが、夜になると頭の部分だけが内臓をぶら下げて飛んで行ってしまいます。その隙に、残ったボディの足に赤いペンキを塗っておきます。すると、戻ってきた「ピー・ガスー」はそれが自分の体なのかがわからなくなってしまい、体に戻れないまま朝日が昇ると死んでしまうそうです。
頭しかないのに意外と頭が弱い化け物のようです。
「ピー・ガスー」同様、女の首が飛ぶという妖怪は、ラオスやミャンマー、フィリピン、中国にも似たような言い伝えがあるそうです。一説には日本の妖怪“ろくろ首”は、形が変わった「ピー・ガスー」が伝わったのではないかという話もあります。怪談や妖怪には、その国や民族の価値観・物の考え方が色濃く出るものだといわれますが、この、グロくて凶暴というわかりやすい怖さの一方で憎めないもろさもある、というキャラクターが、タイの人々が伝統的に怖がり、そして好んできた存在であるということは、興味深いです。